「おもてなしの経営学」

本書を読んで私が一番引っかかったのは、「ビジネスが分かる」とは、いったいどういう能力なのかということ。
一般的に日本のエンジニアは、技術に関しては興味が尽きないがビジネスには全く疎い人達が多いと言われます。本書でも、日本のソフトウェア業界の事情をそのように評して、日米間の技術者の違いを論じながら、今は「ビジネスが分かる技術者」が必要なんだと著者の中島さんは主張します。過去にMS本社でWindows95IEの開発に直接携わった方ゆえにかなり説得力があります。そして同時に、明言はされないものの、日本のエンジニアのふがいなさに対する中島さんの強い苛立ちと挑発を感じずにはいられませんでした。「おまえら、もっと金儲けに貪欲になれ」と。
中島さんが暗に指摘するように、私自身いつまでもナイーブなままでいるつもりはないですし、一生技術者としてやっていきたいと本気で考えるならば、お金の事から絶対に目を背けることはできないと思っています*1。自分の力で稼ぐことができなければ、組織内で自分の意見を貫くことが困難になり、その結果、将来やりたい事が見つかっても仕事として挑戦しずらい状況に追い込まれるからです。
ところが、そこから一歩進んで「ビジネスが分かるようになるには、どのような能力が必要なのか」を考えようとすると、自分は途端に思考が停まってしまう傾向があります。技術に関する場合、分からない事に直面してもどのように学習していけばいいか、これまでの経験からあまり悩むことはないですが、殊にビジネスとなると、どこから手を付けていっていいか、なかなか見当がつきません。残念ながら、本書からこの疑問に対する回答は得られませんでした。
もしも「ギークのためのビジネス入門」みたいな本があったらぜひ読んでみたいです。最初に何から取り組めばいいか教えてくれる手引き書となる本。ソフトウェア関連の技術書に例えると、「プログラミング作法」とか「達人プログラマー」のような本がそれに相当するのでしょうか。本来、ビジネス感覚というものは読書だけで身に付くものではなく、現実の仕事を通して培われていくものだと思いますが、私のように手探りな状況の人間にとっては心強い一冊になってくれると思います。

おもてなしの経営学 アップルがソニーを超えた理由 (アスキー新書)

おもてなしの経営学 アップルがソニーを超えた理由 (アスキー新書)

*1:実際のところ、自分の中にまだ素朴な技術者像に惹かれる部分があって、それがビジネス的な発想を阻んでいるところに自分の未熟さを感じています。